甘理木雨汰 · @shi_bi_to_ni_ktns
1 followers · 56 posts · Server pawoo.net


かくん、とこごめの頭が揺れた。それは深夜に、僕が大学卒業をするための最後のレポートをパソコンに打ち込んでにらめっこをしているからで。
「……眠いなら寝たっていいんだよ」
ふるふる。こごめは無言で首を横に振る。
こごめは最近、僕の傍に居たがる。それは、嬉しいことなのだけど。
僕の心の中には、先週の夜中の『行動』が蟠りを作っていた。
深夜、僕に馬乗りになったこごめは、半裸だった。そして、言ったのだ。「抱いてください」と。
反応してしまった、まだ思考が単純だった僕は何の疑問も持たずにこごめを抱いた。まさかまだ中学生だったこごめがそんな言葉を知っているなんて思いもしなかった。けれど、僕がこごめを抱いたのは本当だった。
……こくりこくりとこごめの頭が揺れる。本当に、眠いのなら眠ればいいのに。或いは、僕が眠る準備をすればいいのだろうか。僕はそう思って、パソコンの電源を落とした。

#こご僕昔話

Last updated 2 years ago

甘理木雨汰 · @shi_bi_to_ni_ktns
1 followers · 56 posts · Server pawoo.net


「お前だな?こごめを拉致したのは」
ある日の学校からの帰り道。知らない男に声を掛けられた。けれど、こごめの名前を出したことから、この男がこごめの言う「新しいお父さん」なのだろうと推測する。
「……拉致?」
「こごめを返してもらおうか。それとも、力尽くで奪われるか?クソガキが」
力でものをいう父親。典型的な虐待親だ。
「あなたはこごめを虐待してたんでしょう」
「それの何が悪い」
「子供は虐げるために存在するんじゃないんだよ」
男の眉間に皺が寄る。図星だが、返す言葉がないのだろうか。何か言おうとして迷っているようだった。
「こごめは僕が保護しています。捕まるなら、長い間こごめを虐待していたあなたの方が妥当。違いますか」
「……ッ!」
ぶん、と風切り音。気づいたときに僕は既に、男に殴られていた。
「……手を、出しましたね」
ぼそりと呟いて、僕はポケットからスマホを取り出す。
「こごめなら情状酌量はあったかもしれない。けれどほぼ無関係である僕に手を出したのは、いけないことですね」
口許を歪めて僕が笑うと、男はずさり、と後退りをした。

#修正版 #こご僕昔話

Last updated 2 years ago

甘理木雨汰 · @shi_bi_to_ni_ktns
1 followers · 56 posts · Server pawoo.net


「違うんだ、こごめ、お父さんはーー」
「お父さんだなんて言わないで!あなたは、部外者だ!」
こごめがそう言うが早いか、男はこごめの頬を張り飛ばす。続けて、崩れ落ちたこごめの腹部を複数回蹴った。これで、虐待の証拠は揃った。それとほぼ同時に、僕達を遠巻きに見ていた人間達の潜めた話声が聞こえる。
「なに、虐待……?」
「あの子たち兄妹なのかな」
「通報する?」
それが聞こえたのかどうかは分からないが、男は慌ててこごめから離れた。自分の分が悪いと思ったのだろう。逃げるように、去ってしまった。
「こごめ、平気……じゃないよな。手当てするから、帰ろう」
「……お兄ちゃんは大丈夫、なの?」
「僕は平気だよ」
笑いかけると、こごめの顔に安堵の色が現れる。こごめは、引っ込み思案でおとなしい子だけれど、他人(特に自分を守ってくれるような人)には、心から親身になるのだ。それを、僕はこごめと暮らしてきたひと月の間で知っていた。
こごめが転んで落とした袋を拾って、僕はこごめと手を繋ぐ。兄妹かーーと僕は思いながら、夕暮れの道をこごめと帰路についた。

#こご僕昔話

Last updated 2 years ago

甘理木雨汰 · @shi_bi_to_ni_ktns
1 followers · 56 posts · Server pawoo.net


「なん、なんだ、お前」
「知らない人に名乗るほど僕はできてないですよ。……あ、警察ですか?」
僕の言葉に、男は再び後退した。けれど、すぐに表情は余裕のあるものになる。
「……お兄ちゃん」
僕の背後からこごめの声がした。振り向けば、細い腕に夕飯の材料を詰めた袋を抱えているこごめが立っていた。
「こごめ!」
「……」
少しばかり青ざめているこごめの顔。それは恐らく、父親を前にしているからだろう。
「お父さんが迎えに来たぞ。さあ、帰ろう」
「……い」
短い声を上げたこごめは、軈て絶叫する。
「いやだ!もうぶたないで!痛いのは嫌だよ!!」
「こ、ごめ……?」
信じられない。そんな表情の男を尻目に、こごめは叫び続ける。
「叩かないで蹴らないで怒鳴らないで!どうしてそんなことするの!?私はあなたをお父さんだなんて思ったことない!叩いたり抓ったりするのが親だなんておかしいよ!」
ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、こごめは感情を吐露している。

#こご僕昔話

Last updated 2 years ago

甘理木雨汰 · @shi_bi_to_ni_ktns
1 followers · 34 posts · Server pawoo.net


「お前だな?こごめを拉致したのは」
ある日の学校からの帰り道。知らない男に声を掛けられた。けれど、こごめの名前を出したことから、この男がこごめの言う「新しいお父さん」なのだろうと推測する。
「……拉致?」
「こごめを返してもらおうか。それとも、力尽くで奪われるか?クソガキが」
力でものをいう父親。典型的な虐待親だ。
「あなたはこごめを虐待してたんでしょう」
「それの何が悪い」
「子供は虐げるために存在するんじゃないんだよ」
男の眉間に皺が寄る。図星だが、返す言葉がないのだろうか。何か言おうとして迷っているようだった。
「こごめは僕が保護しています。捕まるなら、長い間こごめを虐待していたあなたの方が妥当。違いますか」
「……ッ!」
ぶん、と風切り音。気づいたときに僕は既に、男に殴られていた。
「……手を、出しましたね」
ぼそりと呟いて、僕はポケットからスマホを取り出す。
「こgめなら情状酌量はあったかもしれない。けれどほぼ無関係である僕に手を出したのは、いけないことですね」
口許を歪めて僕が笑うと、男はずさり、と後退りをした。

#こご僕昔話

Last updated 2 years ago

甘理木雨汰 · @shi_bi_to_ni_ktns
1 followers · 36 posts · Server pawoo.net


ぎゅう、とこごめが僕の手を握る。確かに、行く前に「はぐれないように手繋いでおこうか」と言ったのは僕だけど。
こごめは恐らく、他の子供よりも他人に対する恐怖心が大きいのだろう。だから、人とすれ違うたびに僕の身体の陰に隠れようとする。
これも全部、こごめの新しい父親が。そう思うと、その男に「こごめが感じた恐怖や絶望」を教えてやりたいと思うが、僕がいなくなったらこごめの居場所がなくなると思うことで、何とかその欲求を押さえつける。
「桜、綺麗だね」
「……うん」
人の疎らな場所についてから、僕はこごめに話しかける。それに短いけれど応えたこごめは、人混みの中にいた時よりかは落ち着いているようだった。
「……前のお父さんは、ぶたなかった」
「うん」
「お母さんも、優しかった。けど、お父さんが新しくなってからーー」
呟くように言ったこごめはそこで言葉を切り、俯く。
「お兄ちゃん、私っていらない子、なのかな」
「……僕にとってはいらない子なんかじゃないよ」
ぱ、とこごめが顔を上げる。生気の少し戻ったこごめの目と、僕の目が合った。

#こご僕昔話

Last updated 2 years ago

甘理木雨汰 · @shi_bi_to_ni_ktns
1 followers · 36 posts · Server pawoo.net


じ、と。こごめが砂時計を見つめる。砂時計はさっきひっくり返したばかりだから、小さくさらさらと音を立てながら細い管を砂が落ちている。
「……飽きない?」
「全然」
こごめは、こういうものが好きなのかもしれない。前もただ動き続ける時計の秒針を見ていた(そして時報に驚いていた)から。
食器を片付けて、それからまた暫く砂時計を見た後、こごめは宿題をやり始める。小学三年生の国語の問題集だった。
「猫とか見るのと、砂時計見るの、どっちが好き?」
「……砂時計」
変わってる。こごめに気づかれないように僕はこっそり笑って、洗い物に戻る。こつこつという鉛筆が机に当たる音と、皿が擦れあうかちゃかちゃという音が混じる。時折鉛筆の音はごしごしという消しゴムが机を擦れる音に変わる。
ふと、こごめにとって僕の家は居心地がいいのだろうか、と思う。家に帰るような素振りを見せたりしないから、「居心地が悪い」という訳ではないのだろうけれど。
「学校は楽しい?」
「それなり」
「友達はいる?」
「……いない。作りたくもないからいい」
幼かった頃の僕と似ている。そう思った。

#こご僕昔話

Last updated 2 years ago

甘理木雨汰 · @shi_bi_to_ni_ktns
1 followers · 36 posts · Server pawoo.net


家にこごめを連れ帰ってから、数時間が経った。
失踪届や捜索願いが出されていないのか、こごめの親からのアクションはない。
こごめの背負うランドセルからは全教科の教科書とノート、それと筆箱が出てきた。
「あと、足りないものとかありそう?」
「だいじょぶ」
「そっか」
ぽんぽん、とこごめの頭を撫でる。小学生にしては落ちつきすぎているというのが引っかかったけれど、恐らく父親からの虐待が原因なのだろうことは容易に想像できた。……僕も、そうだったから。
「でも、お兄ちゃんに迷惑かけられない」
「僕がいつ君を「目障り」って言ったの?」
「……言って、ない」
「君の気の済むまでここにいていいからね。束縛しないし、変なこともしないから」
こくん、とこごめが頷く。僕はそれを見てこごめに笑いかけて、何か簡単な夕食でも作ろう、と立ち上がった。

#こご僕昔話

Last updated 2 years ago

甘理木雨汰 · @shi_bi_to_ni_ktns
1 followers · 36 posts · Server pawoo.net

こごめと僕の、昔の話。
初めて出逢った時、こごめは未だ小学生だった。公園で一人で遊んでいて、疑問に思ったから声を掛けたのだ。
「……君、一人なの?」
こくん。少女は頷く。
「名前は?」
「……ちがさき、こごめ」
ぽつりと呟いて、少女ーーこごめは僕を見上げる。
他の子供は僕とこごめを気にしていないのか、喧騒が近付くことはない。
「お兄ちゃんは、どうして私に声かけたの」
「一人で寂しくないのかなって」
「さみしくなんてないよ。……家でも、こうだから」
こごめの長い花緑青の髪は、風に吹かれる都度隠された顔面の痣を見せつける。虐待かーーそう思った僕は、こごめのその痣の部分を撫でる。びく、と身体を跳ねさせたこごめは、さっきよりかは生気の戻った目を僕に向けた。
「この痣どうしたの?」
「……新しいお父さんが、ぶつの」
ふむ、と僕は考える。高校生という時分ではあるけれど、僕は独り暮らしだ。こごめを連れ帰っても変な目を向けられることはない。そう思って、僕はこごめの手を取り立ち上がらせた。

#こご僕昔話

Last updated 2 years ago