瓶に挿しつぱなしで四月を越えた侘助椿が、厭らしい萌黄の腋芽を吹いた。腐つた水の中で粘液にまみれてゐる切口を思ふと、総毛だつてくる。凝血色に爛れてこびりついてゐた花が、ころりと落ちたのが一週間前だった。湿つた花粉が毒薬のやうにテ ーブルにこぼれて、そのままかわききつてゐる。その一週間前に父が失踪した。
#塚本邦雄 「蘭」
「いつから髪を刈らぬのか頭は百日鬘、 顔は叢同様の髭鬚髯」
#塚本邦雄 『十二神将変』
この文章、すげぇな。日本人でよかったと思っちまうくらいすげぇ。文学ってこういうことだよな、などと文学のブの字も知らねぇけど感動しちゃう。