ノンフィクション作家  
20230614 (初回放送20230309)
tvu.co.jp/program/lastlecture_

「日本はなぜあんな愚かな戦争をしたんだろう?
愚かだと言われる理由を具体的に見ていこう」

「子どもができたとき
その子どもに
日本ってどんな国?どんなふうに育ったの?
って訊かれた時に

うん 日本ってやっぱり悪い国で
いろんな国侵略したんだよ
ひどいもんだったよ
もう しょうがないよな と答える

「それだけ?」
それだけ?って訊かれたら
うん そうだよ って言う

色んな国侵略したのは事実ですから
これについて学問的にも
あるいは政治思想的に語るときも
きちんと日本は反省しなくてはならないし
きちんと認めなくちゃいけない

だがその前に
なぜ二十歳をすぎた青年が
南方の名前も知らない国に送られていって
鉄砲担いで行って
死ななきゃいけなかったのか
兵隊たちは 指導者たちは何を考えていたんだろうか

(この辺りをふくめて資料を確認しようにも)
資料がなかったらなかったってとこになる
残念なことに
官僚組織の資料を全部燃やしちゃっている
なんで燃やしたかというと
自分たちの責任を問われるから」

こうして保阪は軍や政治の指導者含む戦争関係者4000人の証言の「聞き書き」により事実を一つひとつ積み上げ 戦争の実像を浮かび上がらせる仕事を始めることになる

「現憲法までは 国民は 臣民=天皇の子ども の立場
基本的権利にアミがかかっていたのが
戦後現行憲法で取れ
同時にそれは青天井になった
主権は国民にある
持って生まれた基本的な権利
市民的な権利の保証
この権利を自覚するかしないかが大事

自覚しない人は国家に依存する
そうじゃないんですね
自分は市民として自律しているとすれば
国家と50:50の関係なんです

ですから国家との間で
自分が納得できない
国家の政策が納得できないとなったら
いろんな手がありますね
亡命する人もいれば
異議申し立ての手続きを取る人もいるでしょう
そういうことをする権利があるんですね

そういう権利が保証されているこういう自覚がなく
国家に依存するという体質で
社会の中で動いていこうとするならば
それは天皇制の臣民国家と変わりがないということです

それは自分の権利を放棄しているということです
もっと言うと
自分自身に対する基本的な認識がまちがっているってことですね」

東條英機とは何者か?
「彼はどうしてこんなに一生懸命戦争しか考えなかったのか?
私はまず手紙を出し
カツ夫人に30回ぐらい会った」

カツによると
戦争の始まる二日前
東條は布団の上に正座し
皇居の方を向いて泣いていたという

「自分がリーダーで引っ張ってってるわけですけど
もし負けたらどうなるんだとか
天皇はあまり戦いたくないというような意思を持っていましたから
その中で戦うというのはどういうことか悩んで
結局泣くんですね

泣くというのは日本の指導者の最後の手なんです」

ーーー東條英機と天皇の時代(ちくま文庫)
chikumashobo.co.jp/product/978

戦争から見えた日本の特質
「戦争が終わった時も 昭和20年8月14日の会議でも
(※ポツダム宣言受諾の最終決定をおこなった第16回御前会議)
会議そのものでみんな泣いてますね
私たちの国は
政治が理性とか理知とか いわゆる合理的精神とか
そういうもので分別して行われるべきであるはずなのに
それが涙で誤魔化されていく
という弱さがあるんだと思いますね

泣いて そして 泣くという感情で事態と向き合う
だから 私たちの国は
戦争というものも感情でしかものを見ない」

ある中国で残虐行為をした日本兵の自宅に保阪が話を聞きにいった時のこと
僕はそういう話はしたくないけれども
ただ、ものすごく反省していると
応接間で話し始めたその人に

「今まで誰にも話したことのない
しかも残虐行為を働いたという行為を話すんですから
私はお茶の間で お茶を飲みながら聞くということはとてもできない というと

そうだ 君はようくそういうことわかるなあ

この前ある政党の人が来て
「あなた、中国で残虐行為やったでしょ」
この応接間で色々聞かれたんだよ
しょうがないから答えた

うちに誰もいないと思った
その人が帰った
戸を開けて息子が顔を出した

親父 中国の戦争でそんなことやってきたのか
俺はこのうち出て行く

息子はそれから私に会いに来ないよ、と

つまり
表現ということは
一生を変えるほどの覚悟がなきゃできないし
聞く側が簡単に聞いていい訳じゃないですね

日本軍はあの頃おかしかった
私なんか平時の時に
人を殺すなんて考えたこともない
しかしあの戦争の時に
なぜ自分はあんなにおかしかったんだろうと思うと自分が怖い
戦争という場面だったら 人間はこういう風に鬼になってしまうんだ
それを語らずして
私はやっぱり死ねないと思ってたんだ
だから君と会えたことは良かったと思う
これで気持ちの何分の一かはほっとした、と

つまりどういうことでしょうか

その人の心の中に
一生背負ってる傷があるんです
戦場に行った人は
証言を聞くって簡単にいうけども
その証言を聞くことが
彼が背負ってるものの半分は受け継ぐことなんです
受け継ぐからこちらも辛いんですね
辛いけども、戦争の現実ってのはそんなものなんだ
そういうことをきちんと理解したところから
戦争はイヤだというようなものが出てこないと
話は前に進まないんだ

ですから私たちは
できるだけ生身の人間のその証言の中に生きた人間の姿があるんだと言って
それを大切に残していくことが大事なんじゃないかと思いますね」

中学生の時分 関東大震災にあった父親
助けを求められたため
「お椀探して水飲ましたら
いきなり後ろから棒で頭をぶん殴られた
お前どうして中国人に水飲ますんだ
お前二中の生徒だろ
何考えてんだ
そういって殴打された
その目の前で中国人が殺害されたんですね
で父親はもう片耳聞こえなくなった

父親は終生横浜に足踏み入れなかったんですね
ずっと言わなかったんです(死ぬ間際に打ち明けた)
その目の前で殺された関東大震災のその悲惨な光景がずーっと記憶の中に入ってるんですね
だから言わなかったんですね
人はそういう記憶の中から逃れられない形で生きてるんだなあと思いました
戦争は特にそれが多かったんですね」

Q.悲惨な戦争を経験した後でも戦争が続いていることについてどう感じるか?

「ずっと政治の延長としての戦争だったが
これはもう通用しない

政治で話がつかなかったらって 戦争を選んだらそれだけでもう敗者になるんだ
そういうものを私たちは出さなくちゃいけない
それを私たちの国は
戦争論・戦争観が軍事にだけに収れんしているから

新しい戦争論を作らなくてはいけないけど
それをつくる努力を私たちはしていない

もう一つは
核抑止力下の平和論

つまり 核抑止力の平和論は
ロシアにとってはなんの意味も持たない
ロシアがそんな危ないこと言うなら我々だって核を持つ権利があるんだと言うようなことは当然起こりうる

結局 核抑止力は核を持つ国のエゴイズムであって
それがプーチンの発言によって見直されたりするとするならば

今 核抑止力の平和論を作るチャンスなんだ

それは 核をつくるんじゃなくて
被爆国として
核のいろいろな条約を超えた
もっと根本的・世界的・人類史的な大きな宣言を発する必要
国際的な役割があると思うけど
それをやっていないというのが問題の一つだと思う」

と日本も少なからず
こうした流れにを止めるどころか寄与してしまっているかもしれない事実を突きつける

(ちょうどこれを書きながら
別番組で
「核に関わる日本のジレンマは
そのまま世界のジレンマでもある」
と海外のジャーナリストが発したという内容を観る)

日本の課題
「戦争のことはきちんと語り残さないと

今の若い人は
戦争をまるで江戸時代かずっと昔のことのように思うが
ずっと地続き

270年ただの一回も対外戦争しなかった国が
1894年から10年おきに戦争した
最終的には太平洋戦争で日本は軍事的に解体してしまった
どう見たってこれは極端から極端

特に戦争の末期になると
悲しいほど日本は
常識の通用しなくなるような
人間を爆弾に使うとか
最後まで戦うんだとか
近現代の戦争の約束、ルールをまったく無視して戦った
それが私たちに何を教えるのか
事実を積み上げて実証していくように調べる必要がある

慶応の上原良司の特攻の前日に書いた遺書
大学を辞めさせられて兵士になった学徒兵
(特攻で21歳で亡くなった)

「私は自由主義者でした
 本来 人間は 
 自由主義に生きるのが最もふさわしい動物だと思います
 その意味でいうと
 日本やドイツのような
 ファシズムの管理体制の国が
 戦争に不利な状況になっているのは
 私にとって非常に喜ばしいことです
 しかし私は一機械として 特攻隊員として
 私は明日死んでいきます」

こういった遺書は
3900人の学徒兵の中にはいっぱい残ってます

こう言う命令を出す軍隊は
第二次世界大戦のとき
日本だけなんですね
調べると

(アメリカでは圧倒的不利な状況で玉砕や自決を強いるのではなく
捕虜になって次の機会を待つか戦うか
少なくとも兵隊の意思は確認していたという)

何か一つ一つ崩れていったことを
私たちは近現代史の中から学んで現代史に伝えていかなくてはならない

過去と対話をする
教訓とする」

「主観的希望を
客観的事実にすり替えて
日本は戦争をする
戦争を始めた時の指導者の特質なんですね
かなり日本の指導者に共通して言えることです
それは
今も政治の中ではしばしばあるんじゃないでしょうか
(少しだけ、言いにくそうに)
あるいは私たちも
主観的願望というものを客観的事実にすり替えて
そして論理を組み立てていくんじゃないだろうか
これがあの戦争の中でよく見えると言うことですね

それから国民への戦争協力
説明がほとんどされていない
軍事指導者たちは
調べれば調べるほど悲しくなりますけども
大衆は愚昧である 大衆は無知である
だから本当のこと教えると
がっかりしたり 戦う気がなくなる
だから
我々が白といえば白 黒といえば黒と
強い姿勢で動けば国民はついてくるんだと
公然と
首相官邸の中では軍事指導者たちはそうやって言ってますね

国民を愚弄しているということです」

「ある思想家が言ってましたけども
民主主義の後ろをファシズムが影のようについて歩いているんだよ
民主主義がまだるっこい、
結論が出ない、
なかなか議論ばっかりして、
ってなった時に
ファシズムが前に出てくる
ワイマール憲法下のナチスは正にそれだった
日本もまた昭和の初め
軍事が改革勢力として社会に出てきたときは
議会制の否定・批判というものは
少しは市民的要素を持っていたという
それが追い払われて
ファシズムが私たちの出番ですね
といって出てきた
そういう愚は繰り返さないということを歴史の中から学ぶべきだと思います

それは(日本という国として、そこに暮らす市民として)いろんなものが問われているんだと思うけど
私たちはそのことに関して恐るべきほど感覚が鈍い
本当に民主主義っていうのはどう言う体制なのかってことを
憲法の中での議論の仕方っていうのを長い間やっていないと思う

例えば
私たちの戦後民主主義はアメリカンデモクラシー
私たちの民主主義から
戦後もアメリカンも取らなきゃいけないのに
それを取る努力をしていない
努力って憲法改正したり 戦後の体制見直しなんてそんなんじゃないんですよね
だから逆に言うと
いつまでも戦後民主主義っていうものを是とする

もっと普遍的な原則のあるものに変えていく
政治や思想の問題じゃなくて
歴史の問題だと僕は思っているので
こういう議論はもっとすべきだと思いますね」

Q.戦争というものを遠くに感じている若い人たちを変えていくにはどうしたらいいか?

「僕らの世代が前の世代から
何を受け継いだかというと
お前たちは良いよな 戦争行かなくて済むもんな
上の世代とお酒飲むと
みんながみんな言った

じゃあ我々は次の世代に何を
だからやっぱり(戦争は)やっちゃいけないことなんだよっていうことが
血肉化している言葉から出してるんだけど
血肉化しているって人が
多いわけじゃないから
きちんと次の世代に伝わっていない
それでいてあいつら何にも知らないんだよとだけ言っているんじゃないか

戦争というものはどんなものなのか
もう一回中身を整理してみると
こんなことあっちゃいけないんだよっていうところが
出発点であり結論なのではないか

私は聞き書きをやっていて
そういう傷を背負っている人はかなり多い
その傷は
何かの時言わなければ次の世代に伝わりませんから
伝えていくときに
その人たちの人生は
一生分を使ってるなあ
表現することによって使ってるなあ
と感じましたね

そういう個人的な思いを含めて
やはり歴史を語り継ぐというのはたたかい
気持ちと気持ちのつながりですけど
たたかうという側面もあると思います

つまりそういうふうに伝えるということによって
膨らみをもって伝わっていくんじゃないかと」

(未来に向けてことばを発していく
そういう心持ちでお話しされていたという
そのことばが印象的だった)

#最後の講義 #保阪正康 #視聴メモ

Last updated 1 year ago

リツオドン · @Ritsuo
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みうらじゅんの「最後の講義」で紹介していた"アウトドア般若心経"は人間や歴史と同じようなものだなと思った。

外で見かけた看板にかかれた文字を抜き出しながら般若心経を写経していく中で、ちゃんぽん屋さん、蜂蜜屋さん、ラーメン屋の看板などから抜き出していった文字で構成されている。

人間も同じく、ある人に言われた言葉、友達から学んだこと、たまたま出会ったものなどなど、いろんな事柄がミルフィーユのように積み重なって出来上がっている。誰でも英雄や偉人になれるわけではないが、腐る必要もない。自分の頑張ったことは、少ないかもしれないが英雄偉人、あるいは未来の人たちに何かしらの影響を与えていることもある。道端の石ころも、世界の情景の一部だし、無ければ寂しいものかもしれない。

人生は、誰かの人生に少しでもプラスの何かを与えることができたのならそれで良いのだと思う。

youtu.be/kcv6ReA7Aqc

#最後の講義 #みうらじゅん

Last updated 2 years ago

いしゅみ2 · @ishmitsu
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肯定的にみた。「空あり」のくだりは笑った。全体に得るものが多かったです。走馬灯もなるほどなと思いました。

#みうらじゅん #最後の講義

Last updated 2 years ago