『荒地の家族』佐藤厚志
東日本大震災から十年間、物質的にも精神的にも壊滅的な被害を受けた、とある家族の物語です。
主人公は、仙台近郊の海辺の町で個人で植木屋を営む男。津波で全てを流され、ようやく生活を立て直しかけた頃に妻が急逝。数年後に再婚するも流産を契機に離婚を突き付けられます。悶々と生きる彼にとって、苦しいのはお前だけじゃない、などと言う言葉など、全く慰めにもならないのでした。
主人公の心情を象徴するように印象的に描き出されているのが、海岸に作られた巨大な防潮堤の威圧感と、かつての市街地がそのまま空き地になっている空虚感です。元に戻りたいとどんなに願っても、元なるものの基準は人によって異なっていて、かつ不可逆な時の流れによって、そもそも元通りなんてもの自体が有り得ないのです。
物語が時系列でなく断片的に進む中で、いくつかの同じエピソードが何度も繰り返して語られるのが少々気になりましたが、それだけ主人公にとって重みを持っている、と言うことなのでしょう…
[2023/06/05 #読書 #荒地の家族 #佐藤厚志 #新潮社 ]
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