【初夢の「一富士二鷹三茄子」 十二分割 ⑧】
<能『富士山』 九分割 ⑧>
「船弁慶」の知盛も圧倒されるであろう低音の大音声は、ドンドンと繰り返される足拍子と共に凄い迫力です。のしのしと舞台に進んだシテの働キは、赤頭を靡かせながら大きく回り、両手を広げて拍子を踏み、飛んで膝をつくと膝行……と激しい動きが続きます。
ワキが一礼して箱を持ち去ろうとするところを、まるで睨みつけるような視線で追ったシテは、地謡に乗ってさらに激しい飛び返りなどを交えながら舞い続け、最後に虚空に消えて行くさまを示しながら一気に橋掛リに出て二ノ松で回り、囃子方一斉の合頭と完全にシンクロしたジャストタイミングでの留拍子!最後に太鼓が長く引く掛け声と共に留撥を打って終曲となりました。さすが金剛流、後場での天女舞の流れるような美しさに加え、後シテの圧倒的な舞は富士山の噴火のエネルギーがそのまま再現されたかのような迫力がありました。
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【初夢の「一富士二鷹三茄子」 十二分割 ⑦】
<能『富士山』 九分割 ⑦>
出端の囃子でまず出てきたのは、不死の薬が入った金の箱を捧げ持つ天女。前シテの海人が本当の姿を現したのがこのかぐや姫ですが、ここでは後シテではなく後ツレということになります。紫地に金の藤紋をあしらった美しい長絹、緋大口、まばゆいほど白い面を掛け、日月の天冠が華やか。箱を脇座のワキに授けると、勢いのある囃子に乗って大らかな天女舞を見せ、どんどんスピードアップしていって、ほとんど唐突といってもいいタイミングで地謡前に下居しました。いや、これは凄い。さらに急調子の勇壮な早笛が奏される中、さっと揚幕が上がって今度は後シテの登場です。黒い狩衣、煌びやかな半切の上にダイナミックな赤頭、そして是閑の大飛出という異形の姿で橋掛リに出ると、一ノ松で抑(そもそも)是は、富士山に住んで代を守る、火の御子とは我が事也。
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【初夢の「一富士二鷹三茄子」 十二分割 ⑥】
<能『富士山』 九分割 ⑥>
舞台上に動きはなくても、地謡と囃子方の力比べが見所に高揚感をもたらします。
最後に、かつて方士がこの山に登って不死の薬を手に入れたことが述べられたところで、ワキが愛鷹山、さらに浅間大菩薩について問うと、シテは立ち上がって自分が浅間大菩薩であることを明かしました。不死の薬を与えるからここで暫し待てというシテの姿は舞台上を回り始め、その動きも囃子方のテンポも徐々にスピードアップして神性が露わになり、常座で回ったところで静止。太鼓が入って来序が奏される中、極めてゆっくりとした歩みで中入となりました。
入れ替わりにやってきた間狂言は、浅間大菩薩に仕える末社。この間語リはたいへん見応え、聞き応えのあるもので、富士山の謂れを滔々と述べ、かなり長い舞を伴い、めでたやなと朗々と謡いながら舞台を回って、最後に拍子を踏んでもとの社に帰りけりとなりました。
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【初夢の「一富士二鷹三茄子」 十二分割 ⑤】
<能『富士山』 九分割 ⑤>
真砂長ずる山川や富士の鳴沢なるらんと謡う華麗な縫箔腰巻姿のシテの面は、優美な名品「雪の小面」。朗々と深く重く響く謡が駿河の海のたゆたうような情景を示すところへ、ワキが語りかけて不死の薬にまつわる問答となりました。このとき、常座に立つシテと地謡前・脇座の前に立つツレ・海人女二人という立ち位置から、ツレ二人が目付近くに移りシテが笛前に立つポジション変更が、魔法のように滑らか。不死の薬を燃やした煙が今も立つところから不死山、あるいは6月でも雪を戴くので時知らぬ山などと説明されており、ここで再びスムーズな立ち位置の入れ替えがあってシテは正先へ、ツレ二人は笛前へ。地謡が三保の松原田子の浦からクリを謡う間に短いシテの舞、さらにシテのサシが頂上は八葉にして、内に満池を湛へたりと火口の様子を描写した後は地謡が富士の白雪のことを謡う間シテは正中に下居しての居クセ
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【初夢の「一富士二鷹三茄子」 十二分割 ④】
<能『富士山』 九分割 ④>
ワキ・昭明王の臣下の次第は、倭唐(やまともろこし)吹く風のおとや雲路に通ふらん。ワキは紺の狩衣姿で唐冠を戴き、二人のワキツレはオレンジの狩衣に烏帽子姿。臣下系の約束事(cf. 松尾・氷室)で、ワキは舞台に出たところと正面に立ったところで両手を広げて沈み込む型を示しました。ワキは唐の昭明王に使える臣下で、昔唐の方士が日本に渡り駿河国富士山に到って不死の薬を求めた例があるので、自分もその跡を尋ねようと言うのですが、その前に詞章がワキに日本のことを山海草木土壌までも、さながら仙境かと見えて誠に神国の姿を顕せりと言わせるのはかなり我田引水のような。
道行、着きセリフと続いて裾野に来てみれば富士山の姿に仰天。ちょうどそこへ海人がいたので話を聞いてみようということになり、ワキとワキツレは脇座へ下がって前シテ・海人女の次第となります。
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【初夢の「一富士二鷹三茄子」 十二分割 ③】
<能『富士山』 九分割 ③>
また、面白いことに禅鳳は〈富士山〉を禅竹の作と誤認しています。目的は多武峰八講猿楽で演じるためで、そこは新作披露の場でもあり、当時は改作も新作とみなされていました。
「富士山」は金剛流と金春流にしかない稀曲で、『竹取物語』や不老長寿を求めた道教と富士山の名の由来を混ぜ、富士山を描く能独自に創作された曲です。現在、富士山は休活中ですが、何度も噴火を繰り返し噴煙が絶えなかったために「不死」の山と言われ、またその美しさと荒ぶること(噴火)を畏怖して神として祀られてきました。平安時代に神仏習合になり浅間大菩薩に、中世以後は「木花之佐久夜毘売命」であるとの思想が出現し、それぞれが祀られることで現在に至っています。木花之開耶姫が、能の上で、平安初期にできた最古の物語である『竹取物語』のかぐや姫に代わったと考えられます。
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【初夢の「一富士二鷹三茄子」 十二分割 ②】
<能『富士山』 九分割 ②>
一方、金剛流では後ジテが舞働を舞い、早笛で登場します。また、使用する面にも違いがある等、後場の印象は二流間でかなり違っています。
概して金春流は古い形を残していることが多いのですが、〈富士山〉の場合はやや異なっています。奈良県の宝山寺に金春禅鳳自筆の〈富士山〉が残されています。この自筆本の末尾には「延徳三年(一四九一)辛亥九月三日書之 此富士之能禅竹之作也 多武峯之為に後(?)をば俄に書な(?)をし候也 其憚少なからず…」とあります。一部虫損があり判読しづらい部分がありますが、元安(禅鳳)が38歳の時に〈富士山〉を改作したことが分かります。
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【初夢の「一富士二鷹三茄子」 十二分割 ①】
<能『富士山』 九分割 ①>
〈富士山〉のあらすじから紹介しましょう。「中国の官人が日本へ渡り富士の裾野へやって来ます。そこへ海人が現れます。官人は海人に、昔、中国の方士が不死の薬を求めに来たことを語ります。海人は富士のいわれを語り消えます。やがて、かくや姫と火の御子が現れ舞を舞い、官人に不老不死の薬を与え、富士を讃えます」。以上が〈富士山〉のあらすじです。
〈富士山〉の作者には世阿弥説もありますが不明です。ただし、世阿弥の音曲論書『五音』と芸談集『申楽談儀』に〈富士山〉の詞章の一部が引用されています。したがって、世阿弥時代に存在していた曲であることは確実です。現在、〈富士山〉は金春流と金剛流だけが現行曲としています。後場に二流の間で違いがあります。詞章の相違に加え演出面にも相違があります。金春流では後ジテが楽を舞い出端で登場します。
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「四海波」を謡ってみよう。
What's 『四海波』
『四海波』とは、能の中でも最もおめでたいとされている『高砂』の一節です。
四方の海が波風立たずに治まっているという平和を寿ぐ祝言の謡として知られています
What's 謡。
謡とは能の声楽のことを指します。お腹から元気に声を出してみましょう!
(ご近所が気になる方は気持ちだけ元気に!)
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【太鼓 二分割②】
革
大鼓(おおつづみ=大皮おおかわ)大鼓(おおつづみ=大皮おおかわ)大鼓(おおつづみ=大皮おおかわ)
革は牛皮。表革中央の小さい円型部分は鹿の皮が貼り付けられており、“ばち皮”と云う。ばち皮はその名の通り、桴を当てるポイントとなるが、革の保護よりも柔らかな音粒を出すための施しと云える。ばち皮の真裏にも“裏張り”が貼られており、革の振動のバランスが図られている。革の直径は、約35センチ。小鼓の革のように縁周りの表面には黒漆、裏面には金箔押しが施されている。
調べ緒
小鼓と同じく、太鼓を組み上げるときには麻の紐を綯えた(なえた)調べ緒を用いる。
テレン台
大鼓(おおつづみ=大皮おおかわ)
締太鼓は二本の撥で演奏するため、専用の台に掛けて舞台床に直接置く。写真のような鈎先が緩やかに湾曲させた作りになっているものを、直線的で簡素な作りのブショウ台と区別するためにテレン台と云うが、能ではテレン台が大半のため、単に“台”と呼ぶ。高級な台は写真のような紫檀材が用いられる。
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【太鼓 二分割 ①】
演能において神や鬼などの超人的なものが登場する場面や、舞楽を盛り立てる際には欠くことの出来ない打楽器。能では、単に太鼓と呼ばれる。音の大小強弱関わらず、軽やかで柔らかみを帯びている打音を特徴とする。中央に緩やかな膨らみを持つ木製の胴を二枚の革で挟み、調べ緒(麻紐)で締め上げて、組み上げる。専用の台に掛けて床に据え、二本の撥(ばち)で打つ。
胴、撥(ばち)
大鼓(おおつづみ=大皮おおかわ)大鼓(おおつづみ=大皮おおかわ)
胴は欅(けやき)や栴檀(せんだん)などの原木を刳り貫いて作られている。直径約30センチ、高さ約15センチ。胴外周部は蒔絵が施されているものも多い。
大鼓(おおつづみ=大皮おおかわ)大鼓(おおつづみ=大皮おおかわ)大鼓(おおつづみ=大皮おおかわ)
胴内部には小鼓や大鼓の胴のように、鼓筒工独自の意匠のようなものは存在しない。ただし、平に削っているもの以外にも、凹凸や刃痕を残している胴もある。能で使うのは太桴(ばち)のみ。撥材は檜が好まれる。
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