《昔は學問のことを勉强と謂つて居た。何か一つの目的の爲に，强ひて勉めて我慢をして學問をしたのであつた。多くは新たなる職業の爲であつた。家々の燈火が明るくなつてから，そんな必要の無い人も，樂に世の中の爲に又は愛する者の爲に，靜かな時間を讀書の爲に費すことが出來るのである。
人が自分に入用なだけの學問を，勉强して修めて居る間は，まだ人間社會の全體を，之に由つて改良する見込は立たぬ。少しでも餘裕の有る者が，他を助ける心持で，本を讀み又考へるやうにならなければ，次の代は今よりも幸福にはならぬのである》

― 柳田國男「家の光」（1916年）より

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