扇風機を片付ける。その辺に浮かんでいた空クラゲが、不思議そうにする。夜がすっかり秋になったからだよ。ペンを取り、メモ帳の上で文字にする。空クラゲは文字に張りつき、離れたときには文字を吸い取っていた。胴体の中で、さっきの文字が淡く明滅する。秋の寂しさは薄れ、晩ごはんは美味しかった。
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蛇タイプの子どもが生まれた。毒を持つので、子に噛まれた瞬間、医師から血清を打たれる。体の周りに、映画みたいに青い血が流れている。異星人と婚姻を結ぶ事例を調べたのに、全部が初めてのことだった。体が私のものではないみたい。機械にだってそんな気持ちはある。パートナーが寄り添ってくれた。
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指先にトゲが刺さった。深海から連れてこられたソレは普段は大人しく、部屋のすみで寝ているが、撫でようとすると五回に一度は失敗する。口元のトゲが刺さったり、噛み癖が悪くて噛まれたり。こちらを見て、反省したのか分からない顔をする。天上からさらわれた私の羽に興味もなく、昼寝ばかりする。
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九月は梨やぶどうをもぐ。八月は暑さのあまり空調の効いた部屋から出られない日が多かったが、鈴虫やコオロギが呼んでいるので九月は出た。栗もどんぐりもそろそろ色づく。アキアカネはスイスイと風を通り抜け、雲は高い空をのんびりと泳ぐ。秋を箱に詰めて八月に送る。皆の宿題が終わりますように。#twnovel#140字SS #140字小説 #一次創作
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深海から、空から、次々と猫が現れる。それぞれ場所に適応して別物になった姿で。自己防衛のために防護マスクを身につけ、猫の中から、この夢の持ち主を探す。「起きて! 外の世界でやることがあるでしょ!」自分の夢に叩き起こされた人は、そのまま夢を描きとる。好事家達がひっそりとそれを楽しむ。
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背伸びして天を探る。天井まであと少し。微調整して飛び跳ねる。「出して!」「やだ! 逃げちゃうでしょ」当然だ。ケーキの箱に恭しく閉じ込められた妖精は、さっきまで団地の裏庭で子どもと遊んでいた。他の子と親しくなり、やきもちを焼かれて攫われたのだ。ごめん、と夕方には出してもらえた。
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「怒らないで聞いてほしいんだけど」日傘の下、流れる汗に目を細め、駄目なひとの言い分を聞いている。「さっき蝉を助けたらさ、お礼に蝉の国に連れて行かれて。地下と地上階があって。樹液飲み放題二時間コース」それで遅刻。天女は、相手の背に植えられた蝉のような羽をもぐ。心配させないでほしい。
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「やきもちじゃん」「違うよ」言い合ってビルの裏手の階段を降りる。かんかん、金属の段が鳴る。煙草の匂いがして、首のマフラーを強く巻き直す。知らない誰かの息。排泄された空気。これ見よがしに手を繋いで段を降りきる。今日も屋上から飛ばない強さと弱さで、制服を翻しそれぞれの夜に帰っていく。
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カーテンを開ける。外はいい天気。程よい風が吹いている。メールを見て、ピクニックが決行されることを確認した。「行くよ!」愛らしい小型飛竜が、ベランダできゃうと返事する。今日は見習い竜使いたちを連れて低い山にピクニックへ。サンドイッチとお茶を持って、飛竜用の携帯飼料も積んで出発した。
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猫も杓子もお盆休み。商店街は閑散として、書き入れ時だが人っ子一人いない。お供えの派手な仏花の砂糖菓子が、ガラス越しに照らされている。ふと首筋に風を受けた。「そっちじゃないよ」呼ばれて振り向くと賑やかな盆踊り会場が見える。皆向こうにいたのか。駆け出す背後で廃屋がみしりと音を立てた。
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次々に砂糖菓子を並べる。甘党でも断りそうな物量を、綺麗な箱に詰める。黒服の連中が、リボンをかけたそれを素早く運び去る。最後の一箱が済むと、座り込んで動けない。十七人の王子の誕生祝いは、今朝突然、魔法以外という指示があり変更された。間に合った魔女は、己の頑張りを労って寝転がった。
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身長を比べて、柱に印をつける。置いたままの麦茶の氷がからんと鳴る。大きくなった。子どもの頃より大きいのは当然と、夏だけ避暑に来るその子は笑う。笑顔に刻まれた皺は徐々に深くなり、老獪な姿で、今年こそは食らってやると言うが、化け方が足りない。まだまだひよっこだと諭して遊んで帰らせた。
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冷蔵庫にしまっておいたやる気が溶けてしまった。真夏のゼリーみたいに、溶けて光を透かして揺れている。やる気にエサを与える。かすかに動いたが、キラキラのエサを頭にのせてそのまま寝た。かたまるまで、寝そべってアイスを食べる。エアコンのそよ風が全てを忘れさせる。やる気が凍るまであと少し。
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